宿直・当直・夜勤の違い
本題に入る前に、まず用語についておさらいしておきます。夜間に勤務することをよく宿直、当直、夜勤などと表現しますが、それぞれ微妙に意味合いが異なります。
この記事では、用語を「当直」に統一することにします。
一般的にはこのような違いがあります。
宿直・・・職場を宿にして当番に当たること。
当直・・・当番に当たること。休日の日中に勤務する場合も含まれる。
夜勤・・・夜間帯に勤務すること。
宿直とは、夜間に緊急事態が起きた場合に備えて待機する業務を指します。まさに医師が病院に泊まる場合などですね。
これに対し、日中に待機する場合は「日直」と言います。
当直とは、日直と宿直の両方を指します。何か業務をするというよりも「待機」の意味合いが強く、「何かあったときに対応する係」といったイメージが近いでしょう。
夜勤は日勤の反意語であり、日中に行う業務と同じ内容を夜間に行います。「日勤の業務内容≒夜勤の業務内容」のイメージ。病棟に勤務する看護師の夜勤がそれに当たります。
ただし求人側がこうしたニュアンスの違いを意識して使っているかは分かりませんので、あくまで参考として捉えてください。
当直の有無は求人募集に掲載されているのが基本
当直の有無は、労働者にとって職場選びを左右する重大な要素。ですから、当直業務がある場合はほとんど、求人募集に掲載されています。
当直がある病院とない病院がありますので、しっかり確認しておきましょう。
特に記載がない場合は、当直は無いと捉えるのが普通です。
当直がある場合、平日夜間のほか、休日の日中・夜間の勤務もあり得る、ということ。
土日はしっかり休みたいとか、家庭の事情で夜間は無理、という場合もあるでしょうから、心配な方は面接時にしっかり採用担当者に確認しておくことが大切です。
当直がある理由
冒頭でも述べたとおり、すべての病院でSEが当直をするわけではありません。平日の夜間や休日に勤務しなければならない理由があるから、当直業務があります。
理由としては、例えば次のようなものがあります。
- システム停止が診療停止に直結する場合
- 土日祝でも職員が多数出勤している場合
- 救急患者受け入れなどの業務がある場合
以下、順に説明していきます。
システム停止が診療停止に直結する場合
システムのダウンタイム(停止している時間)が直ちに診療に支障をきたす場合です。高度で複雑なシステムが稼働している病院では、ひとたびトラブルが起きると原因を突き止めたり復旧したりするまでに相当の時間がかかります。最悪、必要な措置が遅れて患者の命に関わるケースもあり得ます。そうした事態に備えるために、常にシステム管理者を置きます。
入院施設を持たない診療所(クリニック)や、入院施設を持っていても規模が小さい病院では、システムが停止した場合は代わりの手段でその場を凌ぐケースがほとんど。どうしても無理な場合はSEが呼ばれますが、あまり出番はありません。
私の場合は小さな病院ですので、休日や夜間に電話が来ることが年に数回あるものの、そのうち実際に出向くのは1回あるかないか。電話対応か、休み明けの対応で間に合っています。
ちなみに、ひとくちに「規模が小さい病院」といっても具体的な定義があるわけではないのですが、医療業界の中では「ベッド数が200床未満」が小さい病院としてカテゴライズされることが多いです。
「床」というのはベッドのことで、200床なら200のベッドがあるということ。ベッドは病床と呼ばれており、病院のホームページに必ず記載されています。「病院概要」といったページを探してもらえれば見つかるはずですから、気になる病院があればぜひ探してみてください。
根拠としては、診療報酬に定められた再診料の点数が、「200床以上の病院」と「200床未満の病院、診療所」とに分けられていることが挙げられます。
再診料とは、患者が病院に再来で受診した場合(=初診でない場合)に、病院が患者に対して請求できる金額のこと。この金額が、病院の規模によって異なります。
病院に再来で受診した場合
200床以上の病院・・・外来診療料 74点
200床未満の病院、診療所・・・再診料 73点・200床以上の病院の場合、再診料のことを「外来診療料」と呼びます。
・令和2年 医科診療報酬点数表による。
200床未満の病院は、診療報酬上では診療所と同じ部類にカテゴライズされているのです。
土日祝でも職員が多数出勤している場合
これについても、病院の規模が関係しています。
病院が大きければ大きいほど、当然ながら職員の数も増えます。入院施設があれば休み関係なしに患者さんの看護が必要ですし、病院によっては365日休みなくリハビリテーションを提供するところもあります。人出が多いぶん、ヘルプデスクとして待機し対応に当たらなければなりません。
またトラブルがなくても、職員が使い方を分からなかったり、誤った操作をして困ったりした場合にも対応が求められます。
救急患者受け入れなどの業務がある場合
これは病院によって異なるのですが、SEが事務仕事を任されるケースがあります。例えば、深夜に救急搬送されてきた患者の受け入れ対応に当たる、といった内容です。もちろん任されるのは傷の手当ではなく、家族への連絡など事務作業の分野になります。
院内SEの求人募集では、「総務」や「事務」が仕事内容に入っている場合があります。「SEなのになぜ事務仕事をやるんだ?」と思うでしょうが、実は院内SEの待遇はどの病院でも「事務職」扱いであることが多いのです。
システムエンジニアは技術者ですから本来は事務ではないですが、ここに病院独特の空気があります。病院で言うところの技術者は、医師や看護師、診療放射線技師、臨床検査技師、といった医療現場に立つ職員のこと。医療システムを下支えする院内SEは事務的な位置づけであるため、その延長線上にある仕事も任される、というわけです。
人手が足りないところでは一人何役も担っている場合があり、受付・請求など窓口業務、物品の在庫管理、果ては外回りの運転手などといった仕事も含まれることがあります。このあたりの仕事内容も求人募集に書かれているはずですから、しっかり確認しておきましょう。
当直がある=「ひとり情シスではない」可能性も
ところで、当直があることは嫌な面ばかりではありません。情シス(情報システム部門)の職員が複数人いる可能性があります。
なぜなら、当直は当番制(交代制)のはずだからです。
例えば夜勤をしたら、次の日はまた夜勤にするか、もしくは休日にしなければなりませんよね。夜勤明けにそのまま日勤に入る、という勤務体系は宿直の医師くらいで、SEが日常的に病院に寝泊まりする体制は考えにくいです。
当直体制が必要な病院であれば、自分が勤務していないときには代わりの職員がいなければ業務が回りません。つまり、ひとり情シスでは当直ができないわけです。
システムエンジニアの方なら分かるでしょうが、ひとり情シスは多忙で辛い立場になりがち。すべて一人で切り盛りするわけですから、夜間に呼ばれようが、休日に電話が来ようが自分が対応しなければなりません。代わりがいないため、休みを取りづらいこともあります。
情シスが複数人いれば、代わりが利きますので楽になります。
いっぽうで、ひとり情シスなのに当直がある場合もあります。
この場合は、院内SEが他の事務職と一緒になって、当直を輪番で担当するパターンが考えられます。SE業務ではなく、上の例で紹介したような救急患者の受け入れなどを行うことが想定されます。
希望にあった勤務体系を選ぼう
当直というと休日出勤や夜勤があり、嫌だなと思う方もいるでしょう。ところが、人によっては性に合う場合もあります。
私は以前、別分野のヘルプデスクの仕事でシフト勤務の経験があり、土日の日勤や夜勤をしていた時期がありました。そのとき感じた印象は、語弊があるかもしれませんが「平日の勤務に比べて楽だ」ということです(笑)。
なぜなら、問合せやトラブルが少ないからです。
平日の日中は人が多いため、どうしても問合せが増えます。利用者が多い分、トラブルも起きやすくなります。夜間や休日に起こるのはたいてい機械系のトラブルで、しょっちゅう起こるものではありません。
ヘルプデスクですから、問題が起きなければやることがないので、ただの待機要員に近かった記憶があります。同僚の中には、座ったまま寝ている者、ずっとスマホをいじっている者も普通にいました(笑)。
その代わり、いったんトラブルが起きると翌朝までに解決しなければいけなかったので、てんてこ舞いになることもありましたが。
「あまり人と関わりたくないし、夜勤でも構わない」という方は、あえて当直勤務の職場を選ぶのも選択肢の一つだと思います。