ベンダーに勤務する医療情報技師の仕事
ベンダーに勤務する医療情報技師の仕事は、医療向けの情報システムを開発・保守することです。代表的なものに電子カルテシステム、医事システム(患者の会計を計算するソフト)、PACS(パックス。レントゲンやCT画像を管理するソフト)などがあります。
開発・保守する仕事ですので、当然ながら要件定義やプログラミングなどシステム開発の知識が求められます。作るモノが医療分野に特化しているだけで、 実は他分野のシステム開発と大きく業務内容が異なることはありません。
病院の現場を知り、安定した病院経営に寄与するシステムを提案する仕事です。
システムを開発する上で、顧客先の業務知識が欠かせないのはどのSEにとっても同じですが、医療業界に関しては独特なものがあり、高い理解が求められます。
その内容はざっと下記のとおりです。
法令の理解が求められる
病院は、さまざまな法令のもとで運営されています。
もちろん一般企業も法令遵守が当然ですが、労務管理や個人情報保護といった「コンプライアンス」レベルではなく、守っていないと減収や収益の返納といったペナルティのほか、下手すれば新聞沙汰の事件にすらなります。
- 診療録の記載内容や処方箋の発行に関しては医師法
- 調剤に関しては薬剤師法
- 放射線の照射に関しては診療放射線技師法
- 患者数の帳簿記録等を定めた医療法
・・・などなど、関係法令を挙げればキリがありません。これらを守らなかった場合、違法となり罰を受けることになります。一般企業と同じように労務管理や個人情報保護関係は当然守らなくてはなりません。
医療従事者はもちろん自分の仕事に関係する法令を知っていますし、法令遵守を前提で物事を考えますので、SEも相応の知識がなければ仕様の検討ができないのです。
システム面での一例を挙げますと、厚生労働省による「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」において、電子カルテに求められる「3原則」があります。
- 真正性(改変がなく真に正しい状態であること)
- 見読性(常に見て読める状態にしておくこと)
- 保存性(復元可能な状態で保存されていること)
の3つなのですが、これらが守られていることが義務となっています。
カルテが不正に改変されていないことを証明するために、いつ誰がどんな記録を加えたのかを履歴管理しなければなりませんし、サーバのバックアップを取るのも「万が一のため」ではなく「義務」になります。
多くの場合、業務系システムというものは業務を効率化したり利便性を上げたりするために利用されます。もちろん電子カルテシステムにおいても目指すところは同じですが、こうした法令やガイドラインを守れていることが前提となります。
病院が導入するシステムにはさまざまな制約を守ることが条件であり、そのうえで効率化や利便性向上を図らなければならないところがあります。
医療情報技師の資格が必要なこともある
もちろん、上に挙げた関係法令をすべて熟知する必要はありません。システム開発に必要な部分だけを知っていればよいわけです。
医療従事者と対等な話し合いができるようにするため、医療と情報処理の双方に長けた人材を育成することを目的として作られた資格として、「医療情報技師」という民間資格があります。ベンダーによっては、この資格を取れ、と求められるかもしれません。
私と付き合いのあるベンダーの社員にも、この医療情報技師の保有者がいます。初めて会う方でも、名刺に記載があれば「話が分かる人だな」と判断していますね。
医療系SEで長く働いている方は、経験で知識を補えていることもあるでしょう。
新卒でベンダーに入社する場合は、医療知識の取得のために「まずは医療情報技師を取ってね」と言われるかもしれません。
いざというときには休みなしで対応
電子カルテシステムは医師の指示や記録を記すもので診療行為に不可欠ですから、24時間365日の常時稼働が絶対です。電子カルテが使えないということは、すなわち診療が止まることを意味します。
もちろん、そうした事態に備えて紙カルテの運用など非常事態の措置を取りますが、並行して一刻も早い電子カルテの復旧を試みることになります。
そうなれば、ベンダー総出で復旧作業に当たることになります。
電子カルテが止まる原因には、2018年に起きた北海道の全域停電(ブラックアウト)のような災害レベルのものから、誰かがLANケーブルを間違えて指してネットワークが機能不全に陥ったなど、人災的なものまでさまざま。
私のような院内SEが常駐する医療機関なら応急措置も取れますが、そうでない場合はベンダーに連絡が行きます。システム停止は診療に関わる重大な障害ですので、迅速な対応が求められます。そのため、夜間・休日でも問い合わせ窓口を設けているベンダーもあります。
当然、電話が来れば休みであっても対応が求められますので、そこがきついと言われる最大の理由かもしれません。